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光太郎は小さな村を物珍しそうにキョロキョロと見渡していた。ある程度大きい町ならもう見て驚いた後だったが、農村は初めてだったので興味深そうに見渡している。
 町のような活気はないものの、生活臭が酷く身近に感じられる泥臭さが新鮮だった。
「キョロキョロするなよ…と言っても無理か」
 ルウィンはらで忙しなく動いてる黒髪を見下ろして、仕方なさそうに苦笑しながら肩を竦めて農道を歩いていた。草臥れた革編みの靴は摩り減って、広大な草原を歩いてきたせいで草の汁で汚れてもいた。
 背の高い美しい賞金稼ぎの腰の辺りの服を掴んでポカンッと口を開けている光太郎を、前方を優雅に飛んでいる深紅の飛竜がクスクスと笑っている。
『アレはなんなんだろう?ダチョウ…?うーんと、鳥かなぁ』
 農道の脇にある柵の向こうで優雅に草を食んでいる奇妙な生き物を、思わず足を止めた光太郎は熱心に観察しながら首を傾げて呟いた。
 らなかったのはルウィンで、裾を引っ張った形で立ち止まられると思わず身体を締められてこけそうになってしまう。もちろん、本当にこけたりなどはしないが。
「苦しいだろ、お前は!立ち止まるなら立ち止まるで一言ぐらい…何を見てるんだ?ああ、カークーか。暢気な連中だよな」
 ルウィンも腕を組んで光太郎のらに立つと、珍しくもない牧歌的なその光景をし見渡していたが口許に笑みを浮かべて奇妙な生き物を眺めた。
「カークー?」
「そう。カークー。荷物を運んだり」
「ぬもつ」
「そう荷物だ。人を乗せたり、それなりに便利な生き物だぞ」
 クイクイと掴んでいた服を引っ張って首を傾げる光太郎に気付いたルウィンは、頷きながら吹いてくるやかな風に双眸を細めて説明する。
 その生き物はキーウィをダチョウぐらい大きくしたような感じだが、少し違うのは、なだらかな背が鳥類らしく角張っていると言う事だ。尻尾のないところと翼が退化しているところ、つぶらな瞳と長いは、どこをどうみてもキーウィだ。しかしあの背中なら、荷物や人を乗せるには便利だろう。
「カークー。小さい、キーウィ、鳥。いっしょ」
 光太郎が指差しながら説明すると、ルウィンは理解したのかしていないのか、へぇと呟いて肩を竦めて見せた。
 恐らく半分ぐらいは理解したのだろう。
「小さな鳥キーウィと一緒?お前の世界にいる鳥か?キーウィねぇ」
 頷いていたルウィンはしかし、「もう行くぞ」と光太郎の頭に軽く手を当てて促しながら歩き出した。彼らの向かうこの村の長の家は、もう間もなく歩いた場所にあるはずだ。
 農道は土が露出していて道端には草が生え放題で、光太郎は自分の暮らしていた町を思い出した。少し奥に入るとすぐに田んぼがあって、農道がどこまでも続いている。春になると芹が生えて、脇を流れる小さな小川には小魚たちが泳いでいた。
 この村の農道もやはり同じで、脇に流れる小川には小魚が泳いでいる。
 ただ、そのカークーの牧場の広さは北海道か、いは外国の農場のように広大だが。
「引っ張るなって。見たいならゆっくり来てもいいんだぞ。この村から出ないのならな」
 この村をっているシーギーの特徴を良く心得ているのか、ルウィンはさして慌てた様子もなく自由にすることを許すような発言をする。しかし。
 古めかしい家が立ち並んでいるが、どの家の煙突からも煙が上がり、中世の農家を思わせて光太郎はドキドキしていた。
『RPGの世界だ』
 ルウィンから離れる気など微塵もない光太郎の耳には、せっかくの申し出は届いていないようだ。そんな態度に腹を立てるでもなく、ルウィンはこんな他愛のないものに素直に興味を示す光太郎に呆れているようだった。
「おお…これは」
 なだらかな坂を登りきった小高い場所にある一軒の古めかしい家の前で、年老いた男が長い茶色のローブに身を包んで立っている。
 賞金稼ぎの到着を今か今かと待ち構えていたのだろう、ルウィンの姿を見とめると、彼は大きく両手を広げて歓迎の挨拶をした。
「ロードのギルドから伝令鳥が来た時は驚きました。まさか銀鎖の賞金稼ぎにお出で頂けるとは…私はこの村の村長ラーディです」
 ルウィンはその老人に左手を拳に握り右手の指をキチンとえ、左手の拳の部分をその右掌に押し付けるようにし唇の高さまで持ち上げると、双眸を閉じて軽くれる賞金稼ぎ特有の挨拶をして、懐から取り出した羊皮紙の紹介状を手渡した。
「これが紹介状だ」
「確かに確認しましたぞ。ささ、何もないあばら家ではございますが、おぎくだされ」
 老人はしく紹介状に目を通すと、すぐにルウィンとその連れを招き入れた。
 室内は木の温もりが伝わってくる天然素材で作り上げられているが、長い間使われているせいか、天井はに汚れ壁には染みが所々文様を作り出している。木のテーブルにも家族が生活している痕跡を残して、食べ物の染みが奇妙な光沢を生み出していた。
『うわー!うわー!』
 もうちゃんとした言葉も出せないでいる光太郎が不躾に室内を見渡して声を上げていると、ルウィンがその頭を軽く小突いて黙らせた。二階に続く階段から様子を窺うように顔を覗かせているこの家の住人らしき少年は、熱心にそんな光太郎とルウィン、そして小さな飛竜を興味深そうに見ている。
 小突かれた頭を両手でっていた光太郎はそれに気付いてニコッと笑いかけたが、ビックリした少年は慌てたように二階に姿を隠してしまった。
(あーあ、隠れちゃった)
 光太郎はこの世界に生きる全ての住人がルウィンのように強くはないことをもう知っていた。
 彼は、やはりその容貌のようにな存在で、その強さのおかげで賞金稼ぎと言う危険な仕事にもけていることをルビアに聞いて理解していたのだ。
 だからこそ、あの少年が物珍しくルウィンを見ていることも理解できた。
「そちらの方は、このようにむさ苦しい家は初めてなのでしょうな」
 嫌味ではなく、親しみを込めて椅子を勧めた老人が目を細めて笑うと、ルウィンは光太郎を促しながら肩を竦めて面倒臭そうに答える。
「カタ族にはなんでも物珍しいのさ」
 この家の娘なのか、田舎娘らしくエプロンをつけた頬の赤い少女が木のコップに温かい液体を満たして持ってきた。テーブルに慎重に置くそのかに震える手は、野良仕事に痛んで、あかぎれができている。
 光太郎はこの少女のような娘が、あの少年の母親なのだろうかと首を傾げた。
「ほほう、カタ族ですか!それはそれは…」
 物珍しそうに村長と娘は光太郎を繁々と観察し、唐突に注目が集まったことにドキッとしてコップの中を覗き込んで冷めるのを待っているルビアを掴んで抱き締めた。不安になるとルビアを抱き締める光太郎の、この世界に来て覚えてしまった奇妙なに、いい迷惑をしている深紅の飛竜は仕方なさそうに大人しく抱かれている。
「さて、村長殿。シーギーの詳しい被害や出没時刻を教えてくれ」
 暖かなコップの取っ手を掴んで促すルウィンに、それどころではなかったことを思い出した村長は居住まいを正して咳払いをした。
「月に2羽から4羽のカークーが襲われていましてな。まだ人間は襲われていないので、なんとかその前に退治して頂きたく依頼した次第ですじゃ。出没はやはり深夜ですな」
 簡潔に説明する村長の言葉に耳を傾けていたルウィンは、不意に気配を感じて顔を上げた。
(6、8、10…それ以上だな。家をすっぽりと囲んでいる)
 先端った耳をてるルウィンの様子に気付いた光太郎は彼を見上げると、青紫の神秘的な双眸がさり気なくだが確実に、油断なく背後の扉と窓の様子をっていることに気付いた。
(…殺気がしない?)
「わぁッ!」
 不意に背後の扉が開いて大量の人間がなだれ込んできた。
 ビックリした光太郎はルビアごとルウィンの腕に抱きついたが、銀髪の賞金稼ぎは目を白黒させて背後の扉を肩越しに振り返った。
「なんだね、お前さんたちは。お客人の前だと言うに…」
 年老いた村長はローブのるようにして、のんびりとなだれを起こして照れ笑いを浮かべている村人たちのもとまで行くと、ほっほっほと笑う。
「なんだ、村人だったのか。道理で殺気がしないワケだ」
 やれやれと呆れたように口を開いたルウィンに、照れ笑いを浮かべていた村人から歓声が上がった。
「おお!喋ったぞッ」
「ってゆーか、俺たちの気配を感じていたんだ!」
「さすが銀鎖の賞金稼ぎ!」
「それにとってもハンサムよ
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 口々に思い思いのことを叫ぶ村人のやかさに、思っているほどには、シーギーの被害は少ないのだろうか?とルウィンが自分の勘を疑ったとしても仕方のないことだった。
『あはは。ここの人たちって楽しいね。賞金稼ぎが珍しいのかなぁ?』
《どうでもいいけど早く解放して欲しいのね。く、苦しいの…》
 光太郎の胸とルウィンの腕に挟まれたルビアはべろんっと舌を出して死んだフリをしている。
『わぁ、ごめん!ルビアッ』
 光太郎が慌ててルウィンの腕を離すと、深紅の飛竜は新鮮な息を吸い込みながらふわりっと天井近くまで舞い上がった。天井近くも酸素濃度は薄いのだけど…
 しかし、それにまたしても歓声がドヨヨ…ッとあがる。
「ルビア、降りてきなさい」
 ルウィンが半ば頭を抱えて促すと、深紅の飛竜は光太郎に掴まらないようにと非難していた場所から渋々と舞い降りてきた。
「飛竜だ!飛竜ッ」
「すっげぇな!銀鎖クラスになるとお供は飛竜なんだ!」
 どよどよとさらにしく騒ぎたてる村人たちを、村長もえて注意などせずにのんびりとコレコレと笑って呟いている。ルウィンは自分の選択に今更ながら頭を抱えたくなったが、光太郎がその様子を見てケラケラと笑っているので、まあいいかなと溜め息を吐いた。
 何となく、ルビアもこの村の雰囲気を気に入っているようだ。
(親しみやすいと言えば親しみやすい村だからな…この村を救えば、コイツらも喜ぶんだろう)
 ルウィンは、笑いあっているルビアと光太郎を見下ろして、仕方なさそうに微笑んだ。


 

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Update:2002.2.26


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