美沙と出会えた事で俺の行動にキレが戻って来た。 不思議な事に身体の疲れをあまり感じなくなっていたんだ。 それどころか、今は早く遺跡にたどり着きたい一心で足を進めていた。 「おい、ケンタ。少しはゆっくり歩いてくれよぉ……」 後ろを歩くハンスが泣きそうな声でそんな言葉を洩らした。 「何だよ、ハンス!少しはダイエットになっていいだろう?」 「何がダイエットだよ。こっちはジャングル歩いてるってだけでオーバーワークしてるのにさ」 そう言ってシダを力任せに掻き分けるハンスの肩をポンと叩きながら、シンディが声を掛けてきた。 「確かにケンタのペースはちょっと私達にも早すぎるわね」 俺は集中力が上がった一方、周りへの配慮が薄くなっていることにハッとした。 「悪かった……ちょっと、先を急ぐ事に焦りすぎてた」 そんな俺の肩をキースが小突きながら「いいって、いいって」と笑って見せる。 コンカトスに来てからアクシデント続きで心が休まる事を知らない。 そんな出来事よりも俺が一番驚いている事と言えば、動機こそ違うけど同じ目的に向かう『仲間』ができ たと言う事だ。幾分か心細さの穴埋めにはなっている事は俺も認めるが、美沙が消えてから丸二日というも の生きた心地はしなかった。 通常の状態なら、100パーセントの確立で美沙の生存は望めない。 そのプレッシャーの中で俺の精神は針の穴ほどの細さまで擦り切れきっていたんだ。 だけど、そんな俺のズタズタの精神にも、美沙の『生きていた』という事実は大きな精神力の回復剤にな ったんだろうな。 だが、今の俺には不安が一つ残っていた。 変な意味じゃないが、美沙の側に居るカルロスって男を俺は信用しちゃいないからだ。美沙が無事で居て くれるに越した事は無いが、あの男の動きはハンスやキースといった連中の「それ」とは違っていたから だ。現状、ここに居る連中でまともなサバイバル教育を受けているのは軍を辞めたジェイス以外には居な い。だが、あいつの側に居るカルロスのナイフ使いは手馴れた玄人の動き以上だったし、美沙を庇いながら も戦う姿勢に隙が無かったからだ。あれだけの腕を持つ男が、あの怪物に連れ去られたって言うのだか ら、信じろって言うヤツの方がどうかしているだろう。 それだけに俺の不安は募る。 幸い美沙はジャジャ馬だけに足手まといになる女の子じゃない分、カルロスが大胆な行動には出やしな いだろうか心配だ。美沙が足手まといになるような怪我でもしたら、それこそあいつの命の保証がなくなる んだ。 ジェイスがシンディに言った言葉を思い出してくれ。 「足手まといは切り捨てる」 サバイバルの上で最上級のルールだ。 「カルロスの人間性に掛けよう」なんて甘いことを言うほど俺は人間できちゃいないんだ。そんな事になれば 美沙は確実に殺される。 ジャングルをウロウロと徘徊するよりも最悪の状況だった。 そんなヤツの側に居るんだから生きていたってちっとも状況に変化はない。 よくよく考えてみれば、日本に居た時に心配していた通りじゃないか? やっぱり俺達二人だけでってのは無謀な冒険だったんだろうな。 この野生の獣……まぁ、あんな化け物はさておいても、そんなジャングルに何も知らない普通の美沙を連 れて来た俺も馬鹿なヤツだ。 シンディに拉致された時は真剣に「こいつらを殺してやりてぇ!」って思ったけど、結果的にはここに居てく れたおかげで美沙はどうにか助かってる様だし、俺にしたってナイフ一本では正直つらい面もあるわけで、 結果的には美沙とあまり変わりはなかった。 「何を考え込んでるのよ。疲れてるんじゃない?」 不意にシンディがペットボトルに入ったミネラルをまた俺に差し出し出すと、近くの倒木の上に腰を下ろし ながら言った。既に遺跡まで数キロと言う地点で、ハンスの疲れがピークに達していたこともあって休憩を とる事になった。俺は今までの事を回想していたせいで、ついボーッとなった感じで座り込んでしまってい た。そんな姿がシンディの目に映ったのか、彼女が気を利かせて俺の側に来たのだろう。 「何について考え込んでるのかは察しがつくんだけど、今はそう深く考えないで居た方がいいわよ。それに カルロスはああ見えてもピンチには強い方だし、美沙も芯が強い感じのコだからきっと私達と合流できるわ」 そう言って元気付けようとするシンディには悪いが、カルロスがこういう状況下に慣れていそうだから悩ん でるんだよ。 「なぁ、シンディ。俺達も美沙達が通っている『地下通路』を通るって事はできないのか?」 「えっ? あっ、そうね。ケンタはあのトンネルの事をよく知らなかったわね」 シンディはペットボトルの注ぎ口から口を離すと、眉を寄せて俺の方を見ながら地下通路についての説明 を始めた。 「このコンカトス半島の地下にあるトンネルを誰が造ったのかまでは私達でも知らないんだけど、あの地下 通路はまっすぐ遺跡まで伸びている事は解っているわ。だけど、その終点までは調査が未だにできていな いのよ」 「何故だ?そんなに難しい事じゃないだろう?」 俺は疑問に思い聞き返す。 「それには理由がいろいろとあってね、とにかく遺跡の地下までは行けないらしいのよ」 シンディはリュックから何かの用紙を取り出し、それを見ながら話しを続けた。 「あのトンネルには細かく『ポイント』って呼んでいる地上への出入り口が点在しているの。カルロスも馬鹿じ ゃないから、最奥まで行く手前で遺跡前のポイントから地上へ出るはずよ」 B4サイズ位の地図を俺の前に差し出しながら説明を続けた。 「ここが遺跡から1〜2キロ手前のポイントね。そして、ここら辺が私達の居る地点だから……カルロスや美 沙が順調に先を進んでいれば、数時間も歩けばポイントに到着するでしょ?」 「ああ、そうだな。それじゃ……」 俺はシンディに「そこへ行くって事にしないか?」って言葉を出す前にビシッと釘を刺された。 「ダメ。あなたの考えてる事はお見通し。ポイントへ行くにはここを流れる河を横断しなくちゃいけないでし ょ?今の彼らに河を渡れなんて言えると思う?」 シンディは休憩を心の底から満喫しているキースやハンス、ジョンの姿に目線を移しながら瞼を閉じて言 った。 「あなたの気持ちを考えて皆も出きる限り無理をするとは思うけど、そのポイントまで遠回りして更に数キロ も歩いた上で遺跡までの距離を歩ける自信は今の私達には無いのよ。それに遺跡にたどり着くだけが私 達の本当の目的じゃなかったでしょう?遺跡の内部調査、遺跡内に生存者が居るか?まだまだ体力に頼 らなくちゃならない仕事が山積みで押し寄せてるんだもの、その辺も考えてちょうだい」 シンディの言葉はもっともだ。地図を見る限りでもトンネルの上を横切る河を迂回するまでにここから数キ ロは歩かなくてはならないだろう。ただですら歩けないと悲鳴を上げるハンスをつれてそこまでできる自信 はシンディでなくても、今の俺ですらないんだ。 「ああ、そうだった。今はとにかく俺達が無事に目的地にたどり着いてれば結果が出るってことなんだしな」 「そう言うこと。じゃ、みんなも出発の準備ができてるみたいだから、そろそろ行こう!」 シンディは自分も疲れていると言うのに、そんな事を微塵も感じさせない笑顔で俺に言うと、ジョンに改め て進路の確認をすると俺達の士気を高めるような声を掛けて歩き始めた。 女の子ですら強くジャングルの中で生き抜こうとしてるんだ。 こんなことでクヨクヨしてられねーぜ、椎名健太の底力をコンカトスの大地に思い知らせてやる!!
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Update:2003.2.8