「で、おじさんは何て?」 数日後、私は飛行機の中で健太の隣の席に座っていた。 「ああ、あの遺跡の事についてか?」 「そうよ。何かそれなりに掴んだとかいう話はないの?」 その飛行機は小型ジェット機で、民間企業がスポンサーとして用意したものらしい。乗り心地には文句は 言えないんだけど、エンジン音がうるさいコトを除けばそんなに気になるようなところは無いの。でも、エンジ ンの音はやけにうるさいのよね。 それはさておき、健太の思いがけない協力で私はお姉ちゃんの消えたコンカトス半島行きのキップを手に 入れる事ができた。どうしても、コンカトス半島に行きたかったんだけどある意味、未開の島という事で交通 機関がかなり複雑になり、他の飛行機で行こうと思ったら、たどり着くまでにこの飛行機の5倍の時間はか かるのよね。もちろん、天候に左右される事も考えての話しだけど。 「その遺跡のことは一般ではまったく良くわかってないらしいぜ。それに、不思議な事が沢山その付近で起 こってるらしいんだ…」 「えっ、不思議な事?」 「ああ、ま、でも、噂話だから……現実性がないものばかりで、参考にもならないよ」 そう言うと健太は自分の毛布を頭からかぶったまま、こちらに背を向けて眠ってしまった。不思議な事が 起こるってどう言う事なんだろう?そう考えながら私も健太と反対の方を向いて横になったの。リクライニン グ式の特殊な座席は小人数用の旅客機ならではの贅沢さよね。 「あ、言い忘れてたけどさ…」 「何よ!」 突然、眠ってるとばかり思っていた健太が急に声を掛けて来た。 「そんな怒んなよ、オレ、ずっと疑問に思ってたんだけど…。言っておかないとマズイと思ってさ。その、遺跡 の周辺には空港とか無いんだけど、この飛行機どこに降り様って言うのかなぁ?なんてね…」 えっ?空港が無いですって?? 「ちょっ、それって!!」 慌てて健太が私の口を押さえる。 「み、美沙!声、デカイ!!」 「だって、飛行場無いんじゃ、どう着陸しようって言うのよ」 私は健太の方へ身を乗り出して小声で話す。 「さぁな、でも、そろそろ、何かあるんじゃないか? 島が見えて来たぜ…。」 そう言って健太が指指した方向には、月明かりで輝く海と半島…。 それに流れ星が昇って…昇って!? 一滴の明るい発光体のような物がこちらに飛んできていた。健太はそれを食い入るように見ていたが、 「やっべ、美沙!!」といきなり私の上に圧し掛かって来た。 「な、何!どうしたのよ!?」 発行物が機体の左翼エンジンをかすって飛んでいくのが、健太の腕の間から見える。 それまでの静かだった機内が打って変わって、何が起こったのかわからないと言った感じでパニックに陥 った。外を見たり、機内で泣き叫ぶ者もいた。 そんな中でも、冷静にスチュワーデスは機内アナウンスを繰り返している。 『落ち着いてください、当機は左翼エンジンのトラブルによる…』 こんな時でも落ち着いてアナウンスできるなんて、さすがスチュワーデスと見なおしちゃった。 …って、感心している場合じゃない!! そう思った瞬間、もう一度その衝撃は訪れた。 「やべぇな、エンジンが両方とも火を吹いちまったぜ…。まるで、始めから仕組まれてたって感じだな」 健太は意外にも冷静に外を見てる。こんな状況で良く落ち着いていられるわね… まぁ、昔から少し鈍いところあったけど、こんなピンチな時にまで鈍いんじゃしょうがないんだけど。 「まぁ、もってあの島の岸まで飛べば良しって感じか?」 かろうじて煙を吐きながらそれでも余力で飛ぶ機体の先に、目的地のコンカトス半島が見えてきた。より によって、あとわずか数十分のフライトで着陸できたっていうのに… なんて事なの!!まったくツイてなじゃない!! 「ちょっとぉ!!ケンタ、アンタ、わかってンの!?墜落してんのよ!私達、死んじゃうかもしれないんだ よ!!」 私は『飛行機が墜落する』、ただそれだけでその恐怖に脅え慌てふためいていた。あとわずかで自分は 死ぬ。そう、考えただけでもやりきれない気持ちになっていると言うのに、健太のヤツ、何を考えてるの?慌 てるどころか逆に冷静に何かをブツブツ言いながら必死に考え込んでいるようだった。 他の乗客も逃げ惑っている。どこにも逃げ場が無い今となっては、せめて進む方向と逆の方向に進むぐら いしか術はないと言うのに…。 「こんな空の上で逃げ場なんて何処にも無いのに、バカじゃない?この人達…」 映画で観た豪華客船が沈没したときの乗客に似たその慌て振りを見ながら、私の口は自然とそんな言葉 を洩らしていた。 どうかしちゃったのかな? 「おい、しっかりしろ!!まだ、死ぬって決まったわけじゃないんだ。まだ、エンジンだって止まってないんだ し…大丈夫、オレの言う事を聞けば美沙は生き残れるって!」 そう言うと、毛布を棚から引きずり出し始めた。乗客達は既に安全な後部に集まっているって言うのに。だ けど、健太はそんな連中を尻目に、とにかく沢山の毛布を集め始めたの。 「いいかい美沙、毛布をめいいっぱい集めるから、そいつをこのベルトでぐるぐるに巻くんだ!そうしたら、合 図と一緒に飛び出す。いいか、必ず生き延びて見せるから…」 いつもと違う健太の真剣な顔に、私はただ無言で頷くだけ。 健太のあんな真剣な表情は、今までに見た事が無かったから…。 やがて、その運命の瞬間が訪れた。 健太が前方の扉の前でその時までの準備を繰り返していた。だけど、誰も手を貸す事も無くただ脅えた 目とバカにしたような目で彼の行動を見ているだけだった。 『生きるための努力をしないヤツは死んでいるも同じ。』 昔、何かの本で読んだ事があった。ここにいる健太を除いた私を含める全員にあてはまる言葉だった。そ れに比べて、健太はどうだろう?何度も何度も扉に生き延びる手段を求めて必至になっている。 「美沙!!こっちへ!!」 飛行機の高度がどんどん下がる中、健太は私を呼び寄せると、ぎゅっと私を抱きしめてきた。 「ケンタ、あの人達は……。」 そう言いかけた時、健太がその言葉に割って入った。 「みんなは、みんなさ…。」 機体の胴体が着水したと同時に健太はロックを外した。勢い良くバウンドした飛行機が前のめりになる前 に、私達の身体は外に飛び出していた。そんな私達の身体が乗るハッチは、まるでカバンに付けたキーホ ルダーのように大きく半円状に吹き飛ばされつつあった。健太は必至にその状態のまま自分達が乗る方が 上になるようにバランスを取ってる。何時に間にか用意されていたワイヤーが機体とドアを繋いでいた。機 体に接続されたワイヤーを支点に私達の乗ったドアは半円を描きながら前方へと投げ出されて行く。 まるでスローモーションみたいで…その最初の衝撃に私は意識を失ってしまっていた。
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Update:2002.3.11