俺はジャングルの葉を押し分ける音と共に重い足取りでジャングルをさまよっていた。

既に美沙とはぐれてどの位の時間が経つんだろう?

 何度も頭の中で繰り返される問いかけから、ただ逃げるように脚を動かしているだけだった。牢に閉じ込

められていた俺は必死で自分に対する彼らの誤解を解いた。

 そのせいで時間は大幅に過ぎ、この時間からしても素人の美沙が生きている確率は非常に低い状態に

陥ってしまったんだ。

 手にしたナイフは植物の出す樹液に緑色に光りながらも、わずかに残る銀色の部分で俺に日光の反射を

繰り返していた。

 シダの生い茂るジャングルを知らないアイツがこの辺境の地を歩いているんだぜ。

 それを考えただけでも胸が押しつぶされそうだ。

 そんな事ばかりが頭の中でグルグルと駆け巡ってはイライラした気持ちが俺の気分を虚しくさせるだけだ

った。

 どうして俺を連れ去った奴等と俺が仲良くジャングルを歩いているかと言うことには理由があった。

 ベースキャンプへ俺を運んだシンディがこの半島のジャングルを歩いた経験がある俺に提案を出したん

だ。

"ケース・バイ・ケース"

 無くした物資の補給や医薬品関係の提供と捜索の協力をするというかわりに、交換条件としてシンディ達

の隊に合流し現地を案内するものだ。

 オヤジとは何度か脚を踏み入れた経験のあるジャングルだったし、美沙の事を考えても条件を飲む以外

に手はない。それに素手のままでいくらなんでもこのジャングルに飛び込める程の勇気はさすがに無かっ

たからな。

 それに彼女達にとっても俺は都合の良い「案内役」としてこのチャンスを逃す事はこの先の調査に大きな 

影響が出ると考えたんだろう、条件は結構良かったんだぜ。

 結局の所、持ち物は食べかけのカンパンの他に缶詰が少し入っているだけのリュックを返され、武器にな

るような物は一切返してはもらえなかった。

 勿論、俺一人でも美沙の行方を追うつもりでいたんだけど、シンディ達の調査隊が向かう先があの遺跡と

言う事や、あのナイフを返してもらうには出された条件を完全にのむという条件付きでないとダメという事だ

ったんで仕方なかった。

「ケンタ、ここへは何度くらい来たことあるの?」

 シンディが後ろを歩く俺に、これで10回目の問い掛けをした。

「4回目だ」

 流石の俺も邪魔なシダの葉をナイフで切り落として先に進みながら10回目の返事を繰り返す事に嫌気が

さしていた。

 に集中力が欠け始めた予兆なんだろうな。

 勿論、何度も同じ事を繰り返してるって事はシンディも解ってはいるものの、つい口に出てしまうんだ。だ

が背丈程もある植物が急に増え始める頃、掻き分ける植物がシンディの声すら聞き取りにくい状態に

ている事に気づいた。

「これじゃ、先がみえねーぜ!」

 今いる隊員の数は10人弱。

 この数は俺の知る限り、生き残っている全ての人間じゃないのか?

 まぁ、何人残っていようとあまり変わりないだろうけどな、きっと。

 それにしてもこいつらの服装には驚かされるぜ。

 人それぞれの趣味は大いに尊重するが、いくら自由だからって音楽を聴きながらジャングルを歩いたり、

戦争さながらの衣装を着たにはちょっと不安を感じさせられる。

 民間企業の募集でこんな辺境の地に来るような人間になると、このくらいの図太い神経の奴等じゃない

限り雇わないんだろうな。

 そんな事を考えながら、どんどん背丈の伸びるジャングルの中をシンディ達が目的としている遺跡へと脚

を運んでいた。

 それにしてもこの辺りにこんなに背の高い植物が生えていたっけ?

 まぁ、そんな事より美沙の手がかりを捜さないといけないけど、進んでいるこの道すがらにはそれらしい物

は何一つ見つからなかった。

「手がかり・・・見つかった?」

 ペットボトルに入ったミネラルを差し出しながらシンディが俺の隣に腰掛けた。

 ボーッとした状態のままジャングルをさまよっていたせいか、今初めて休憩している事に気が付いたん

だ。

「いや、こんなに広いジャングルなんだぜ?そう簡単に見つかりっこないさ・・・」

 さすがに背丈が俺たちの二倍近くになれば先に進む事が容易ではなくなってくる。

 そうなると迂回するのか、このまま先を突き進むのかを決めなくてはならない。

 そこでシンディ達が検討したいと言い出した所までの記憶はある。

「美沙ちゃんを捜すのもいいんだけど、体の方は大丈夫なの?何だか"ボーッ"とした目つきでフラフラ歩い

てたみたいだけど……」

 俺はミネラルウォータの入ったボトルから口を離すと、シャツの袖で口元をぬぐった。

「気にしないでくれ、俺は大丈夫だから」

「そう?結構疲れてるんじゃないの?それに時間もだいぶ過ぎてるから、そろそろめてた方がいいんじゃ

ない?」

「えらく、あっさり言ってくれるんだな」

 俺の言葉にシンディがこちらを横目で見るとツンとそっぽを向いた。

「…とにかく、ウジウジ考えたって仕方ないでしょ?最悪の事態を見たわけじゃないんだし、とにかく今はこ

こを乗り切ることを考えてちょうだい!」

 そう言って離れた場所で迂回について相談している『仲間』の場所へとシンディが俺を連れ出しながら言

った。

 そこでいろいろなケースを考えて意見が出されたが、結局俺たちの身の危険性や進行具合から判断して

迂回路を進む事に意見がまとまった。

 こうして足を進めている間に半日が過ぎてしまった。

「迂回して正解だったな」

 先頭を注意深く進んでいる班から無線連絡があった。

 大きくまとまって進んでいた俺たちだったが、視界が少し広がった事から二班に分かれて捜索する事にし

たんだ。

 こうすればもしものことでも全滅れるからという案だった。

 だけど、分散したところで残った俺達が無事でいられる保証は無いはずなんだけどな。

「気は抜かないでね、ここは貴方達の家の庭を歩いてるんじゃないのよ」

 そう言ってシンディが皆を見て笑う。

 さすがに視野が1m未満ともなればこんなジョークも言えないところだが、見通しが少しでも良くなった事

で開放的になったのだろう。確かに心なしか少しだけ息苦しさが無くなった気がしていた。

 今、俺達の居る場所から遺跡がある場所まではそう遠くはなさそうだ。

 さすがに正確な距離まではハッキリ言えないけど、「あと一歩」という付近にまでは辿り着いて居る事は

間違い無さそうだ。

 だが、ここまで来ているというのに美沙に関する手がかりはゼロ。

 その事だけが俺を何時までも暗くさせていた…

"だが、逆にここまで何も無かったって事はむしろアイツが生きているって事になるんじゃないのか?"

 そんな期待が俺の心の中に広がり始めた頃だった。

 突然のアクシデントが俺たちを襲ってきやがったんだ!

 前方を歩く隊員の奇声がレシーバーから上がると、銃を乱射し始めた音がすぐに飛び込んで来た。

「おい!どうした!!おいッ!!」

 緊迫感が俺たちの前を進む前方の連中へと意識を集中させる。

「バカね!そんな事してるより早く助けに行かないと!!」

 シンディが慌てて手にした銃の弾を確認すると、荷物を投げ出すように先行の連中が居る所へと駆け出し

たんだ!

「ハンス、荷物をお願い!!ジョンは私と一緒に、キースはケンタを連れて援護してちょうだい!」

 そう言って走るシンディにキースが叫ぶ。

「おいおい、ケンタはトウシロなんだぜ!?」

 振り返りながらニヤッと笑うシンディが、「ケンタ、あなたはキースに銃の使い方を30秒で教えてもらいな

さい」と言って茂みの中へと姿を消した。

 ポカーンとした俺の肩をんだキースが、「俺たちのお姫さまは結構ジャジャ馬だったりするのさ」って口

を曲げながら言うと小型のマシンガンを手渡してきた。

「後を追うぞ!!ハンスは荷物を抱えて来い!!」

「ちょ、キース、俺がそんなに持てっこないだろう!!」

 ハンスの悲痛な叫び声を背にしながら、何故そんなことになっているのか全くわからない俺は走りながら

マシンガンの基本的な部分の操作を教わった。

 初めて握る"武器"に俺は少し不安はあったが、美沙を助け出して一刻も早くこのジャングルから脱出させ

たい気持ちが、俺を危険な戦闘へと駆り立ててくれた。

「とにかくトリガーを弾きゃ弾丸はハジかれる仕組みだ!くれぐれも間違って俺の背中を撃つんじゃねー

ぜ!!」

 茂みを二つ抜けたところで俺とキースは転がるように走り込むと、少し開けた場所に飛び込んでいった。

だが、その銃口の先には敵の姿は無く、沈んだ顔をしたシンディがライフルを力無く持ったまま立ちすくんで

いた。

 俺は危うく引き金を引きそうになっていた自分の指を必死に止めたんだ。

 そして俺とキースは銃口を下げると直ぐにシンディの元へ駆け寄った。

「もう手遅れだったわ…」

 先に着いたシンディに言われ隊員達の死因を調べ始めた頃、ようやく俺達に追いついたハンスがその光

景を見て大きな嗚咽を始めた。

 俺達はハンスを無視して真剣に辺りを調べ始めた。

 彼女は隊員のを片っ端からひっくり返し始めるが、特に写真で見たような痕跡も無く、逆に彼らが突然

狂った様に叫びながら死んでしまったのかさえ理解できないくらい何も無いような状態だった。

「変ね…死因になるような痕跡が無いわ」

 シンディは眉間にシワを寄せ、に手を当てたまま考え込んでいた。

 彼女の話によると神経関係の毒なら幻覚症状を引き起こす場合もあるようだが、シンディの調べた限りで

は小さなみ跡すら無いという。事実、俺が調べた連中にしてもそんな傷らしい物はなかったからな。

「そうなると毒を吸い込んだ可能性か…」

「そうね。こんな状況なんだし何らかの毒を吸い込んだって考えられない事も無いんだけど…」

 そこでシンディが顎から手を離すと不信そうに顔をしかめた。

「それなら……私達も残った毒に少しでも侵されてても良いはずよね?それなのに、あんなに息を荒くハァ

ハァ吐いてたハンスですら今でも平然としているんだから、それは違うと思うわ…」

 そう言うシンディの脇をんで引き起こす男がいた。

「おいおい、今度は死体についての議論をおっぱじめようってのか?」

 そして男はシンディの顎を掴むとその顔を俺たちに向けて言ったんだ。

「シンディ、俺達の部隊が何人で行動しているか数えられないのか?見てみろこの人数を!!」

 そう言って、男はそこに並ぶ俺達を指でさしながらヒステリックに叫んだ。

 その指先には俺を含めて5人。

 さっきの話しにも出てきた場違いなほど太っているハンスの他に3人だけだ。

「いいか、俺達を入れても7人しか居ないんだぜ。こんな状況なのに毒がどうのって言ってる場合なの

か!?そんな事より死んじまったモンは見捨てて先に進むもんだぜ」

「何を言ってるのジョン?原因は後の行動に影響が出るんじゃないの、それを調べもしないで先に進むなん

て…」

 シンディは立ち去ろうとするジョンの腕を慌てて掴んだ。

 だがジョンはその腕を振り払うと俺達を残してサッサッと先に進む。

「…」

 言葉も無いままシンディは首を振って、ジョンの後に続くしかないと言った顔で俺達を見た。一応、今回の

調査隊のリーダーは彼という事もあって、誰もジョンの行動に文句は言わなかった。例えシンディが隊長の

娘であろうと、今この時点での班の権限はやはり彼にねられているからだった。

 冷たい感じの双眸をしたジョンだが外見の冷たさには関係なく、このジャングルでは的を得たもっともな

意見だったせいもある。確かに先行隊が俺達と距離を置いていなければ、助ける事もできたかも知れない

が、逆に原因のわからないパニックに巻き込まれて全滅していたかも知れない。まぁ、ジョンが居れば真っ

先に撃ち殺していたんだろうが…

 そんな事を考えながら歩いていると、俺の後方をついて歩くハンスがいきなり声を掛けてきた。

「なぁ、ケンタ…」

 突然、無言のままガムをクチャクチャと噛んでいたハンスから声を掛けられた俺だったが、振り向きもしな

いままで愛想のない返事を返す。

 だがハンスも気にしていない様子で話を続けた。

「お前ってさ、ジャングル詳しいんだろ?さっきからさぁ、フェニックス通りにあるパイ屋のアップルパイが焼

けるニオイがしてるんだよなぁ」

 "フェニックス通り"なんて俺は知らないぜ……って、今の俺達にその場所が何か関係あるのかよ。

 そう思いながらもそんな話には付き合いきれないといった風に手を振って見せた。

「それにしてもさっきからこの辺、やけに静かだと思わないか?」

 ハンスの言葉の続きをトムが続けた。

 トムは俺達の周りに居る生き物たちや動作する物体をレーダーなどを使って素早く探知する役を受け持っ

ていた。

 そんな彼に言われて俺達は動きを止めてみると、確かにそう言わてみると獣の声がしていない。

 それどころか、まるで息を潜めている様な緊張感が伝わってくるような感覚が俺にはしたんだ。

 そう言えば、いつだったかジャングルの原住民から聞いた事があったな。

『野生が息を潜める時には森が騒ぎ始める』

 その言葉を簡単に訳せば"ヤバイ"って意味になる。

 俺の直感が警告するのと同時に一斉に鳥達が前方で飛び立ち始めた。

 何かがいスピードで近付いて来ているに違いない。

 木の揺れる音が、獣達の慌てふためく声が、俺達の行動に足かせとなっていかかる。

「な、何なんだ!?」

 先頭を歩くジョンが俺達に振り返る。

 その顔はリーダーに相応しくない。

 彼も"こんな経験をした事が無い"といった顔で、これから何かが起ころうとしている現実にどう対処して良

いのか解らずにいるんだ。

 突然、俺とハンスの真後ろの男が奇声を上げた。

 極度の緊張からかあらぬ方向へと逃げ出す。

「バカ!動くな!!」

「トム、戻って来い!!」

 その途端、今まで姿を見せていなかった"ソイツ"がその異形の姿をあらわした。

 ヒルのような体にはい突起物が無数にあり、その口には数え切れない程の歯があった。

 その生き物がトムの前に踊り出ると、口から素早く出てきた管を一気にトムの腹に突き刺し臓腑を吸い出

し始めたんだ!!

「うぐっぅぅぅ……!!」

 トムは必死に吸い出そうとする管を抜こうともがいていたが、どうする事もできずに自分の内臓が半透明

の管からヤツの腹へと流れ込んでいくのを空ろな目で見ていた。

 にその状態から彼を助け出す事はできない。

 途端にヤツがトムの腹から管を引き抜くと、噴出した血を辺りのシダの葉にべっとりと飛び散らせながら今

度は内臓の抜けたトムを頭から一気に口に入れたんだぜ。

 その光景に俺達は正直足がんで身動きが取れないでいた。

 どうした事だろう、手には銃器を抱えていると言うのに"ソイツ"の巨大さに俺達は動けないでいるのか?

 いや違う。

 ヤツが行うすべての行動に俺達の常識を超えた恐怖が"終わりだ、助からない"って告げているんだ。

 そう、"こんな奴を相手にして勝てるはずが無いんだ"って頭が言っていた。

 全て終わってしまう。

 美沙を探す事も、ここから脱出することも…

 俺達はトムの次に誰が襲われるのか恐怖で張り裂けそうな気持ちの中、ただ死の順番を待っていた。

できれば最後は嫌だ。皆が食われる姿、あの恐怖を何度も見せられた上で自分の体に起こる恐怖を味わう

のはゴメンだからだ。

 皆がそう考えて居るようだった……だが、状況は一瞬にして好転した。

 逃げ惑う動物は動きを止めたソイツの瞬間をつくように一斉にその場を動いたからだ。

 ヤツはそれを感じ、俺達には目もくれずにその場を去っていった。

 どうやらヤツの"動きのない物を捕獲しない習性"に助けられた様だった。

「な、何なんだアレは…」

 数分後に目をむいたまま黙って立ちすくんでいたジョンが言葉をもらす。

「おい、ケンタ!!アイツは何なんだ!?お前なら知ってるだろう?アイツは何だ……まさか、あんなバケモ

ノが居る事を知ってやがって俺達をここに連れてきたんじゃねーだろうな!!」

 情けない引きつった顔をして先ほどのシンディに対する態度とはまったく正反対な印象を与えていた。そ

のくせ、今は自分がどんな顔をしながら俺を見ているかも知らないで、情けない言葉を連発してきた。

「ちょっと待てよ!そんなにマシンガンのように話してんじゃねぇよ!落ちついてから話せっての!!」

 そう言ってまれた胸ぐら払うとジョンを突き飛ばした。

 冗談じゃねーぜ、今の俺だってこの場で何が起こったのか理解に苦しんでるのんだ。そんな俺に何ワケ

のわかんねーコトいってんだよ!!

「ケンタはジャングルを知ってるって言ってじゃないか・・・今のが何だか分からないのか・・・」

 デブのハンスが恐怖心にえた声で俺にすがる様に言葉をらす。

「そりゃ、こんな状況で言うのはイヤだけどな、お前らよりは知ってるよ。だからってあんなヤツがこのジャン

グルに居るなんて俺も知らなかったんだ。仮にその事を知ってて隠したところで俺が生き延びる確率がヤ

ツの前であると思えたか?今回はこの状況からいえる事だが、『運が良かった』だけさ」

 そうだ、運が良かっただけなんだ。

 生まれてから多くの国をオヤジと一緒に駆けずりまわった。

 勿論、伝承やそれらの類の化け物の話しは山ほど聞いたが、実際にジャングルでそいつらの姿を見た事

は一度もない。仮に大物の野生動物に出会っ他としてもあんな凶悪な生き物に出会って、俺が"今"ここに

存在できているハズがないじゃないか。

「とにかく…だ。俺たちは今とても危険な所に足を踏み込んじまったようだが、給料っている以上は、"恐

いですからできません"は通用しない。それなりの成果を出さなければ給料もないと考えて行動しろ!!」

 そう言ってジョンが下がる一方の部隊の士気を高める為に必死で俺たちを怒鳴った。

 大バカヤロウが今そんなことすりゃ、逆に士気を下げちまうだろう!?

「ワリィけど、俺は給料ってんじゃねーからこの場から退散するぜ」

 俺の横に居るハンスはその言葉に噛んでいたチューイングガムを飲み込んでしまっていた。

「冗談でしょ?ケンタ、僕は君を頼りにしてるんだから……」

「頼りにされたってムダだぜ、ハンス。いいか、俺達が目の当たりにした生き物はこの地球上で今までに確

認されたことの無い生き物なんだぜ?ソイツと俺が、ここの全員でもいい、戦って勝てるとでも思ってるの

か?」

 その言葉にさっき襲われて死んだトムの死にざまを思い出したのか、足をガクガクと震わせながら失禁し

ちまったんだ。クソッ!情けねーヤツだ。

「ちょっと待ってよ、ケンタ。とりあえずは私たちとの約束は守ってもらわないとね?」

 シンディはいつの間に抜いていたのか、銃口を俺の頭に押し当てながら言ったんだ。

「おいおい、本気かいお二人さん?いいか、ケンタもそこまでこの状況を理解できてるんだったら一人行動

の危険さも解ってるんだろう?シンディも、これだけ人手が足りない上に案内役のケンタをみすみす自分の

手で始末するってのはナンセンスだと俺は思うがな」

 キースがニヤッと笑いながら俺の肩を抱くとシンディの銃口をよそに反らせながら間に割って入ってきた。

「なっ、二人とも混乱してるのは良く分かるんだけど、ここは頭を冷やして良く考えよーぜ」

「え、ええ、そうね。このジャングルを抜けるにはやはりケンタの力が必要なんだし…もう一度考え直しても

らえないかしら?」

 シンディは頭を押さえながら自分の行動に冷静さを欠かしていた事が恥ずかしいのか、そっぽを向いて溜

め息を吐いた。

「ああ、すまなかった…そうだな、俺もどうかしてたぜ。あんな奴に俺一人で出くわしたんじゃひとたまりも無

いからな」

「だろ?」

「それじゃ、ここから急いで離れましょう!!」

 皆は一刻もその場を出発したかったといった顔つきで俺達を見ると、いつもより急ぎ足で慎重にその場を

立ち去った。

□ ■ □ ■ □

 その後の俺たちの行動は黙々とジャングルを抜ける為に歩き続ける事だけだった。

額に浮かぶ汗を何度も腕でいながら歩く俺達にとって、何処までも続くジャングルの中では木陰ですら

ムシムシと暑苦しく思えてきた。その上いつまた襲われるかも知れないあの生き物の恐怖に全員が重苦し

い空気を拭い去れずにただ集中力を消耗し続けていた。

 だが、俺たちが急ぐ理由にはあの生き物だけが原因ではなかった。

 こんなジャングルが一度日を落とせばそこはある意味、戦場と同じになるからだ。

 夜行性の動物には獰猛な獣は多い。

 そう、このコンカトス半島だって例外じゃないだろう。

「マズイな。日が沈めば俺たちはさらにこのジャングルの中じゃ不利になっちまうぜ」

「ああ。だけどよ、何時になったら俺たちはこのジャングルを抜ける事ができるんだ?」

 後ろを守りながら歩くキースが愚痴をこぼす。

 そう言われてみれば、どの位の距離を進んだって言うんだ?

「そうね、まだ半分くらいじゃないかしら・・・地図から計算すると、あと2〜3キロっはあるんじゃないかし

ら?」

「おいおい、マジかよ?」

「んっ!?おい、あれは何だ?」

 あきれた口調で先頭を歩くジョンが向き直った直後、キースが前方を指差しながら叫んだ。

 その方向に俺達の視線が集まる。

 何か建物らしい物が即座に目に飛び込んできたんだ。

 そこにはどう見たって不自然なコンクリートで作られたエントツ…いや、違うな…何かの排気口のようなも

のが見えるぜ。

 この距離から推測しても結構な大きさのものだとわかる。

 いったい・・・何なんだ?

 俺達の居る場所から数キロ先に見える場所にそれはあるんだが、その場所を通るとなれば遠回りする形

になってしまうのだ。

 だが、ジョンの奴がその不審な建築物を調査に行くと言い出したんだ。

「もしかしたらあそこに日本人の調査隊が居るかも知れないだろう?」

「あのね、ジョン。あそこが何にせよ、彼らは遺跡に向かったのよ?それがどうしてあんなワケのわからない

場所に居るって思えるの??」

 その意見に反対するシンディが言った言葉だ。

「良いかシンディ、人間は時々わけも無く変な行動を取っちまうかも知れないんだぜ?それなら遺跡以外の

場所に居てもおかしくないだろう?」

「あのね……まっ、この班のリーダーはジョンだから、良く考えて行動すればいいんだわ」

 まだジョンに反抗するように言いかけて、その言葉を諦めたように飲み込んだシンディが呆れ顔で言った。

結局、シンディはジョンのリーダーとしての意見を尊重する方面でそこへ行く事に決めたのだ。シンディは納

得がいかない顔でむくれてはいたが、「まぁ、遺跡へ通じる何通りかのルート上にある場所なんだし、いい

んじゃないのかそこも調査対象ということで?」と俺がシンディを説得する。

 その言葉にも納得がいかないのか、不機嫌そうな顔に違いはなかったが、だからといって子供のように駄

々をこねても無駄だということは本人も良く解っているようだった。 

 程なくして俺たちはその建物がある場所までたどり着いていた。

「何だこれは?」

 外観は箱のような広場になっていたが、この場所より地下へと掘り下げられ中央にはヘリポートにある

『H』というマークが描かれている。

 それにしても何故こんな所にヘリポートなんて作ってあるんだろう?

 辺りを見回しても、それを利用するような建物が見当たらない。

 当たり前だ、ここはジャングルの真っ直中なんだぜ?

 そのコンクリートで作られたに俺たちは一列に並んで中を覗き込んでていた。

 人気はない。

 人気というより、すでに使われていない様子が目で見て解る。

「ジョン、ここは会社の施設なのか?」

「いや、聞いたことがないがな」

 俺はそのヘリポートの壁に鉄の扉が付いている事に気が付いた。

「おい、あれ」

 俺は鉄の扉を指す。

 扉が突然ガンガンと音を立てて揺れ始めたんだ!

「おい、あの扉の向こうに何か居そうな気がするぜ?」

 キースが興味津々といった声を上げる。

「馬鹿な事いわないでくれよぉ……また変な生き物でてきたらどうするんだよ」

 ハンスはこわばった声でそう言うと、俺の後ろにサッと隠れてきた。

「おいおい、勘弁してくれよな……」

 今度は何が起ころうとしているんだよ、まったく!!


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Update:2003.1.26