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呟き
〜Murmur your wish〜

 

 溜め息のように、彼女が呟いた。
 良く聞き取れなくてバックミラーを覗くと、忙しなく煙草を燻らせて苛々したように柳眉を顰めた彼女の、その心の底まで見透かしてしまいそうな双眸と目が合ってドキッとした。
 僕はしがない運転手で、彼女は飛びきり美人のトップスター。
 ままならない事だってあるんだろう。
「どうかしたんですか?」
 できるだけ控え目に絞ったボリュームの声で訊ねると、彼女は顰めていた柳眉をフッと和ませ、バツが悪そうに苦笑をすると真っ赤な口紅が官能的な唇に笑みを刻んで呟いた。
「今日ね、娘の誕生日なのよ。でも、仕事だったでしょ?遅くなって…あの子、きっとカンカンだって思っただけよ」
 僕は驚いた。
 トップスターである彼女の秘密を、唐突に打ち明けられたのだ。
 彼女の運転手になってもう10年、無事故だが違反は無視してきた僕は、それでも彼女にとってはただの運転手に過ぎないと言うのに。
「そ、それは。私なんかに言ってはいけませんよ。とんだスキャンダルになるじゃないですか」
 咳き込むように噎せる僕の台詞に、彼女はふと微笑すると、気に留めた様子もなく呟いた。
「あら、あなた。この秘密をパパラッチにお喋りするの?」
 トンッとリズミカルに灰を落として、彼女は唇を艶かしく尖らせると僕に煙を吹きかけた。
「でも、それもいいわね。娘を隠してもう5年になるのよ?そろそろあたし、あの子を世間に認めさせたいと思っているの」
 マネジャーにはもう言ったのだろうか?
 しかし!そんなことをすれば世間から隠し子騒ぎで彼女の名声は沈下してしまう。
 僕は焦った。
「貴女の、貴女のお気持ちも判りますが…こんな運転手風情が口を出す問題ではないと思います。しかし、敢えて言わせていただきます」
 角を曲がる為にウィンカーを出す僕の、ハンドルを握る手はきっと震えている。
 彼女をマンションまで送るために、車はゆっくりと安全運転で走っていた。
 彼女は、魅力的だと絶賛される少し掠れた声を今は潜めて、僕の次の言葉を待っている。
「それは、隠し子を世間に発表すると言うことは、貴女にとって致命的なスキャンダルになります。その覚悟でも、やはり貴女は、お子さんを世間に認めさせるのですか?その子もきっと、辛い思いをすると思いますよ?」
 彼女は少し俯いた。
 俯いて、タバコの紫煙をゆっくりと吐き出した。
「それでもいいの。辛い思いはきっと一瞬で過ぎて行くわ。あたしは、名声よりも何よりも、家族で幸せに過ごす時が欲しいのよ。長すぎたもの…」
 ハッと気付くと、彼女の頬には涙が光っていた。
 決意は固く、長い時間をかけてゆっくりと彼女の中に培われてきた想いと言うものは、誰にも容易く理解できるものではないのだろう。
 美しい彼女の見せる、その偽りではない涙に、僕は答えを出せなかった。
 この10年、初めて彼女が見せる弱さに僕は動揺した。
 誰もが憧れ、誰もが夢見るようなスポットライトを一身に浴びて光り輝くトップスターであるはずの彼女は、まるで捨てられた、ただの女のような寂寥感が漂っている。
 幸福が欲しいのだと。
 偽らざる幸せを手に入れるなら、もう何もいらないのだと静かに流す涙。
 ブラウン管やスクリーンで観る、どの顔の彼女よりも美しかった。
 彼女の隠されたマンションに近付き、僕はハンドルを握っている両手に力を込めた。
 指定の駐車場に車を滑り込ませると、彼女はあっさりとした幕切れに諦めたように溜め息を吐く。
「今日の事は忘れて。覚悟していたつもりなのに…今夜のあたしはどうかしているわ」
 短くなったタバコを灰皿に押し付けて揉み消す彼女の、綺麗に化粧された顔にはもういつものトップスターが貼りついていた。
 誰にも心を覗かせないと、教えてあげないと、その顔はキッパリと外界を拒絶している。
「ママ」
 ドアを開けて、不意に彼女の表情が驚きに染まる。
 5歳ぐらいの少女が、ニコッと微笑んで立っていたからだ。
「ここに降りてきては駄目って言ったでしょ?早くお部屋に戻りましょうね」
 身を屈めたトップスターは母の顔を見え隠れさせながら、動揺に揺れる表情で無邪気に戯れかけてくる少女の小さな身体を抱き締めた。
「今日はね、ママのおたんじょうびなの」
 クスクスと微笑みながら囁く少女に、彼女は小さく微笑んでありがとうと呟いた。
 今日は彼女と娘の誕生日。
「今日ね、パパがここにいなさいって言ったの。ママをびっくりさせるプレゼントがあるからって」
「え?」
 少し掠れた声で呟いて、彼女は驚いたように僕を振り返った。
「誕生日おめでとう。僕の方こそ、今日は君に告白しようと思っていたんだ」
 君に先を越されてしまったけれど…
 僕は彼女の傍に近付いて行くと、微かに震えている細い肩を娘ごと抱き締めて、驚いたように双眸を見開いている彼女のこめかみに口付けながら呟いた。
「結婚しよう」
 
 トップスターはいつしか母と妻の顔をして泣いていた。
 その涙に濡れる表情が、どんな彼女よりもずっと美しいと思った。
 長い間待たせてしまった僕の呟きに、彼女はイエスと呟いて、優しくそっとキスをくれた。
 僕たちはこの日、漸く本当の家族になったのだ。

─END─

Copyright 2000-2002 Kou Saiki with FREE☆LANCE. All rights reserved.
Thank you! 1000HITv&3000HITv...2002.2.22

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☆後書&注意☆

紫貴です。

この度は紫貴の拙い小説を読んでくれてありがとうございましたv

この小説は1000HIT記念の為にダダ―ッと書いた短編ものッス。

同時にサイトの方も3000HITしていたのでお祝い事が重なった喜びを表したくて、ハッピーエンドで

す(笑)

(今度こそ!)老若男女問わず楽しめるものにしようと思い、家族の話にしてみました。これなら、性

別指定とかしないで載せることもできるし、1000HITは来てくれた皆さんへ感謝の気持ちだからv

それに、なんとなく幸せな話を書いてみたくて、そしてちょっとハリウッド的(?)なお話が。

え?どこら辺がハリウッド?映画スタアっぽく…感じさせられなかった紫貴の文才のなさに涙。シク

シク。

しかし、何ゆえ1000HITでスタアのお話?

って思われたでしょうが、何となくです(笑)…と言うか、紫貴にも謎です。

なんか、スタアって苦労してそうだから。1000HITも苦労して手に入れたから(笑)

ま、今の国内外の女優さんたちはみんな公言してますがね。

思いつきなので、許してやって下さい。

しかし!なんにせよハッピーエンドは必須ですぞ(笑)

じんわ〜りと、紫貴の嬉しさが伝わるような作品になっていたらいいなぁ。

でも、1000だからゴージャスな話にしたかったけど、なんともささやかな話になってしまったな。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

さて、こちらの作品はご自由にお持ち帰りされるも、一瞥して帰られるもご自由です。ただし、WEB素

はお借りしているものなので、それぞれの製作者さまに著作権が発動いたします。なのでお持ち

帰りはしないで下さいね。小説部分のみコピーしてワードパッドなどに貼り付けて保存して下さい。

こんな拙い小説ですが、紫貴は著作権まで放棄しているわけではありませんので、HPで展示して

下さると言う奇特な方や何かに転載してくれると言う奇特な方は、必ずどこかに紫貴 洸の著作物

である旨(Copyright 2000-2002 Kou Saiki with FREE☆LANCE. All rights reserved.など)を明記し

て下さい。再配布以外でしたら転載、複写オッケーです!ただ、お持ち帰りしてくれる人必ず一言

BBSに書き込みして行って下さいねvゼヒ!宜しくお願い致しますvBBSに書き込みしてくれた人の

ところには遊びに伺わせて頂くッすよ!…迷惑でも(ニヤリ)でも、メルアドやURLの記載は強制じゃ

ないのでしなくてもいいです(笑)

ここまで読んでくれてありがとうございましたv

2002年2月22日 紫貴 洸

再配布…作品等を二次加工し自分のものとして配布すること。たとえ無料配布でも紫貴はこれを認めていませんのでご了承下さい。


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